てられすか」とお種は肩を動《ゆす》った。
「そう言えば、達雄さんも満洲の方へ行ったそうですネ」
「そうだゲナ――」
「姉さん、貴方は達雄さんに置去《おきざり》にされたような気はしませんか」
「神戸に居る間は、未だそうは思わなかったよ……どうも帰って来てくれそうな気がして……満洲へ行って了った……それを聞いた時は、最早私も駄目かと思った……」
「仕方が有りません。思い切るサ」
「三吉――お前はそんなことを言うが、どうしても私は思い切れんよ」
 お種は心細そうに笑った。
 ゴーという音が庭先の崖下の方で起った。工夫が石を積んで通る「トロック」の音だ。お種は頭脳《あたま》へでも響けるように、その重い音の遠く成るまで聞いた。やがて、名古屋に居る正太の噂を始めた。彼女は幾度も首を振って、「どうかして彼《あれ》がウマクやってくれると可いが」を熱心に繰返した。
 茶が入ったので、隣の新座敷に薬の紙を折っていたお仙が母の傍へ来た。豊世は幸作夫婦を呼びに行った。
 養子夫婦が入って来ると、急にお種は改まって了った。幸作は橋本の薬を偽造したものから、詫《わび》を入れに来た話なぞをして、その男が置いて行った
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