布で掩《おお》うた。
「ホウ、こうして見ると、思いの外《ほか》大きなものだ……どうだネ、膝《ひざ》は曲げて遣《や》らなくても好かろうか」と森彦が注意した。
「子供のことですから、このままで棺に納まりましょう」と正太を眺めた。
「でも、すこし曲げて置いた方が好いかも知れません」
こう三吉は言ってみて、娘の膝を立てるようにさせた。氷のようなお房の足は最早自由に成らなかった。それを無理に折曲げた。お俊やお延は、水だの花だのを枕頭《まくらもと》へ運んだ。丁度、お雪が二番目の妹のお愛も、学校の寄宿舎から訪ねて来た。この娘は姉の傍へ寄って、一緒に成って泣いた。
午後には、裏の女教師が勝手口から上って、子供の死顔を見に来た。
「真実《ほんと》に、何とも申上げようが御座いません……小泉さんは、まだそれでも男だから宜《よ》う御座んすが、こちらの叔母さんが可哀そうです」と女教師は言った。
お房が病んだ熱は、腸から来たもので無くて、実際は脳膜炎の為であった。それをお雪は女教師に話し聞かせた。白痴児《はくちじ》として生き残るよりは、あるいはこの方が勝《まし》かも知れない、と人々は言合った。
黄色く日中
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