って、峠を一つ越さなければ成らなかった。それから先には峠の麓《ふもと》から馬車があった。
この旅に、三吉は十二年目で橋本の家を見に行く人であった。故郷の山村へは十四年目で帰る。
三吉を乗せた馬車が、お種の住む町へ近づいたのは、日の暮れる頃であった。深い樹木の間には、ところどころに電燈の光が望まれた。あそこにも、ここにも、と三吉は馬車の上から、町の灯を数えて行った。
馬車は街道に添うて、町の入口で停った。馬丁《べっとう》の吹く喇叭《らっぱ》は山の空気に響き渡った。それを聞きつけて、橋本の家のものは高い石垣を降りて来た。幸作も来て迎えた。三吉はこの人達と一緒に、覚えのある石段を幾曲りかして上って行った。古風な門、薬の看板なぞは元のままにある。家へ入ると、高い屋根の下で焚《た》く炉辺《ろばた》の火が、先ず三吉の眼に映った。そこで彼は幸作の妻のお島や下婢《おんな》に逢《あ》った。お仙も奥の方から出て来た。
「姉さんは?」と三吉が聞いた。
「一寸《ちょっと》町まで行きました、姉様《あねさま》も一緒に。今小僧を迎えに遣りましたで、直ぐ帰って参りましょう」
こう幸作が相変らず世辞も飾りも
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