が何よりですわ。笑って暮すのが――」とお雪は豊世の方を見て。
「今にお俊ちゃん達も笑ってばかりいられなく成るよ」
 こう言って三吉が笑ったので、二人の女も一緒に成って笑った。
 三吉は家の内部《なか》を見廻した。彼とお雪の間に起った激しい感動や忿怒《ふんぬ》は通過ぎた。愛欲はそれほど彼の精神《こころ》を動揺させなく成った。彼はお雪の身体ばかりでなく、自分で自分の身体をも眺めて、それを彫刻のように楽むことが出来るように成った――丁度、杯の酒を余った瀝《しずく》まで静かに飲尽せるような心地《こころもち》で。二人は最早離れることもどうすることも出来ないものと成っていた。お雪は彼の奴隷で、彼はお雪の奴隷であった。

        九

「叔母さん――私も郷里《くに》へ行って参りますわ。宅から手紙が参りましてネ、どうも田舎《いなか》の家が円《まる》くいかないようだから、暫時《しばらく》お前は母親《おっか》さんの傍へ行ってお出なんて。まあ、どうしたというんでしょう。お嫁さんを貰うまでは、母親さんの眼の中へ入っても痛くない幸作さんでしたがねえ……私もイヤに成って了《しま》いますわ……彼方《あっち》
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