ん》なぞに眠られたものだと思いましたよ。そればかりじゃありません、宅で向島親子を芝居に連れてく約束をして、のッぴきならぬ交際《つきあい》だから金を作れと言うじゃ有りませんか。私はそんな金を作るのはイヤですッて、そう断りました。すると、宅が癇癪《かんしゃく》を起して、いきなり私を……叔父さん、私は擲《なぐ》られた揚句に、自分の着物まで質に入れて……」
 豊世はもう語れなかった。瀟洒《しょうしゃ》な襦袢《じゅばん》の袖を出して、思わず流れて来る涙を拭《ぬぐ》った。
「叔父さん――真実《ほんと》に教えて下さいませんか――どうしたら男の方の気に入るんでしょうねえ」
 と復た豊世は力を入れて、真実|男性《おとこ》の要求を聞こうとするように、キッと叔父を見た。
「どうしたら気に入るなんて、私にはそんなことは言えません」と三吉は頭を垂れた。
「でも、ねえ、叔母さん――」と豊世はお雪に。
「亭主を離れて観るより外に仕方が無いでしょう」と三吉はどうすることも出来ないような語気で言った。
「そんなら、叔父さんなんか、どういう気分の女でしたら面白いと御思いなさるんですか」
「そうですネ」と三吉は笑って、「正
前へ 次へ
全324ページ中259ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング