名古屋へ発ってから、こうして豊世はよく訪ねて来るように成った。長いことお雪は豊世に対して、好嫌《すききらい》の多い女の眼で見ていた。「豊世さんも好いけれど……」とかなんとか言っていたものであった。正太と小金の関係を知ってから、急にお雪は豊世の味方をするように成った。豊世の方でも、「叔母さん、叔母さん」と言って、旅にある夫の噂《うわさ》だの、留守居の侘《わび》しさだの、二階を貸した女の謡の師匠の内幕だのを話しに来る。正太が発《た》つ、一月あまり経つと、最早町では青梅売の声がする。ジメジメとした、人の気を腐らせるような陽気は、余計に豊世を静止《じっと》さして置かなかった。
「豊世さん――正太さんの許から便りが有りましたぜ」
 と三吉に言われて、豊世は叔父の方へ向いた。風呂敷包の中から小説なぞを取出して、それを傍に居る叔母へ返した。
 三吉は笑いながら、「何か貴方は心細いようなことを名古屋へ書いて遣《や》りましたネ」
「何とか叔父さんの許へ言って参りましたか」
「正太さんの手紙に、『私は未だ若輩の積りで、これから大に遣ろうと思ってるのに、妻《さい》は最早|老《おい》に入りつつあるか……そう思
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