ひえ》の芽が出ている。隅田川はその座敷からも見えた。伊豆石を積重ねた物揚場を隔てて、初夏の水が流れていた。
「そう、三吉叔父さんがいらしって下すったの」
 と豊世は、夫の後に随《つ》いて、町から戻って来た。
「奥様、先程も一人御二階を見にいらしった方が御座いました」
 と老婆《ばあさん》が豊世に言ったので、正太夫婦は叔父の方を見た。夫婦の眼は笑っていた。
 川の見えるところに近く、三吉は正太と相対《さしむかい》に坐った。その時正太は苦しそうな眼付をして、生活を縮める為にここを立退《たちの》こうかとも思ったが、折角造作に金をかけて、風呂まで造って置いて、この楽しい住居《すまい》を見捨てるのも残念である、暫時《しばらく》二階を貸すことにした、と叔父に話した。
「どうしていらっしゃるかと思って、今日は家から歩いてやって来ました」と三吉が言った。「途中に芥子《けし》を鉢植にして売ってる家がありました。こんな町中にもあんな花が咲くか、そう思ってネ、めずらしく山の方のことまで思出した。ホラ、僕等が居た山家の近所には芥子畠《けしばたけ》なぞが有りましたからネ」
「叔父さん、私共ではこういうものを造り
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