」と返事をして、復た寝て了った。
「オイ、オイ、病院から電報が来たよ」
「あれ、真実《ほんと》かなし」とお延は田舎訛《いなかなまり》で言って、床の上に起直った。「私は夢でも見たかと思った」
「叔父さんは直に仕度をして出掛る。気の毒だが、お前、車屋まで行って来ておくれ」
と叔父に言われて、お延は眼を擦《こす》り擦り出て行った。
三吉が家の外に出て、車を待つ頃は、まだ電車は有るらしかった。稲荷祭《いなりまつり》の晩で、新宿の方の空は明るい。遠く犬の吠《ほ》える声も聞える。そのうちに車が来た。三吉は新宿まで乗って、それから電車で行くことにした。
「延、お前は独《ひと》りで大丈夫かネ」
と三吉は留守を頼んで置いて出掛けた。お延は戸を閉めて入った。冷い寝床へ潜《もぐ》り込んでからも、種々なことを小さな胸に想像してみた時は、この娘もぶるぶる震えた。叔父が新宿あたりへ行き着いたかと思われる頃には、ポツポツ板屋根の上へ雨の来る音がした。
復た家の内は寂寞《せきばく》に返った。
車が門の前で停《とま》った。正太はそれから飛降りて、閉めてあった扉《と》を押した。「延ちゃん、皆な帰って来ました
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