――そうしたら私は仕方が無いから、女髪結にでも成ろうかしら――」
 夫婦は互に言ってみた。
 名倉の老人は、母だけ先へ返して、自分一人、娘の家に残った。若い時から鍛えた身体だけあって、三吉の家から品川あたりへ歩く位のことは、何とも思っていなかった。疲れるということを知らなかった。朝は早く起きて、健脚にまかせて、市中到る処の町々、変りつつある道路、新しい橋、家、水道、普請中の工事なぞを見て廻った。東京も見尽したと老人は言っていた。
「でも、阿爺《おとっ》さんは、割合に歩かなく成りました――あれだけ年をとったんですネ」
 とお雪は言った。
 いよいよ老人も娘や孫に別れを告げて帰国する日が来た。※[#「※」は「○の中にナ」、191−4]の兄が連れて来てくれた下婢《おんな》に、留守居を頼んで置いて、三吉夫婦は老人と一緒に家を出た。子供は、種夫と新吉と二人だけ見送らせることにした。
「老爺《おじい》さんが彼方《あっち》へ御帰りなさるんだよ――種ちゃんも、新ちゃんも、サッサと早く歩きましょうネ」
 とお雪は歩きながら子供に言って聞かせた。半町ばかり行ったところで、彼女は新吉を背中に乗せた。
 老人
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