帰って行った。
 修業ざかりの娘を二人まで控えた森彦の苦んでいる姿が、三吉の眼にチラついた。彼は兄を助けずにいられないような気がした。名倉の両親に隠すようにして金をつくることを考えた。


 ※[#「※」は「○の中にナ」、190−5]の兄と連立って、名倉の母が長逗留《ながとうりゅう》の東京を去る頃は――三吉は黙って考えてばかりいる人でもなかった。「随分、父さんはコワい眼付をする」と名倉の母はよく言ったが、そういう眼付で膳に対って、飯を食えば直に二階へ上って行って了うような――最早そんな人でもなかった。
 時には、楼梯《はしごだん》を踏む音をさせて、用もないのに三吉は二階から降りて来た。下座敷の柱に倚凭《よりかか》って、
「お雪、俺とお前と何方《どっち》が先に死ぬと思う」
「どうせ私の方が後へ残るでしょうから、そうしたら私はどうしよう――何にも未だ子供のことは為《し》て無いし――父さんの書いた物が遺《のこ》ったって、それで子供の教育が出来るか、どうか、解らないし(まあ、覚束《おぼつか》ないと思わなけりゃ成りません、何処の奥さんだって困っていらっしゃる)と言って、女の教師なぞは私の柄に無い
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