来ないな――」と正太は呟《つぶや》きながら、いくらか勾配のある道を河口の方へ下りた。
 隅田川《すみだがわ》が見える。白い、可憐《かれん》な都鳥が飛んでいる。川上の方に見える対岸の町々、煙突の煙なぞが、濁った空気を通して、ゴチャゴチャ二人の眼に映った。
「河の香《におい》からして変って来た。往時《むかし》の隅田川では無いネ」
 と三吉は眺め入った。
 岸について両国の方へ折れ曲って行くと、小さな公園の前あたりには、種々な人が往《い》ったり来たりしている。男と女の連が幾組となく二人の前を通る。


「正太さん、君は女を見てこの節どんな風に考えるネ」
「さあねえ――」
「何だか僕は……女を見ると苦しく成って来る」
 こう話し話し、三吉は正太と並んで、青物市場などのあたりから、浜町河岸の方へ歩いて行った。対岸には大きな煙突が立った。昔の深川風の町々は埋立地の陰に隠れた。正太は川向に住んだ時のことを思出すという風で、あの家へはよく榊《さかき》がやって来て、壮《さか》んに気焔《きえん》を吐いたことなどを言出した。
 その時、彼は岸に近く添うて歩きながら、
「榊君と言えば、先生も引込《ひっこみ》き
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