間もなく勉は旅舎《やどや》の方へ戻って行った。三吉は勉の子供へと思って、土産《みやげ》にする物を町から買求めて来た。それを持って妻の前に立った。
「父さん、何物《なに》か――」と種夫は見つけて、父に縋《すが》りつく。
「お前のお土産《みや》じゃ無いよ。あっちの叔父さんに進《あ》げるんだよ」と三吉は子供に言い聞かせて、やがてお雪に、「これはお前に頼むぜ――俺のかわりに、後で勉さんの旅舎まで行って来ておくれ」
「そんなことをしなくッても宜う御座んすに」
 と母は顔を出して言った。
 夕食の後、三吉は二階に上って、机に対《むか》って見た。「馬鹿」と彼は自分で自分を叱った。「どうでも可いじゃないか、そんな事は……傍観者で沢山だ」こう復た自分に言って見た。不思議な本能の力は、しかし彼を唯《ただ》傍観させては置かなかった。何時《いつ》の間にか、彼はお雪が勉の旅舎に訪ねて行く時のことを想像した。彼女と勉との交換《とりかわ》す言葉を想像した。
「どうしたというんだ、一体俺は……」
 思い屈したような眼付をして、彼は部屋を見廻した。
 その時、「君は嫉《ねた》んだことが有るか……」こうある仏蘭西《フラン
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