は「ひとがしら+ナ」、164−15]がお別れに参りました。一寸逢ってやって下さい」
 と名倉の母が階梯《はしごだん》の下から呼んだ。
 三吉も談話《はなし》の仲間に入った。快活な世慣れた勉の口から、三吉は種々な商人の生活を聞くことを楽んだ。勉もよく話した。
 勉とお雪の愛。それを知って、三吉が二人を許してから、可成《かなり》長い月日が経つ。三吉は勉に交際《つきあ》ってみて、好くその気心も解った。以前のことは最早昔話のように思われるまでに成っていた。制《おさ》え難い不安の念につれて、幾年となく忘れられていた苦痛が復《ま》た起って来た。男同志さしむかいでいれば、三吉の方でも快心《こころよ》く話せる。そこへお雪が入って来ると、妙に彼は笑えなかった。
 勉は三吉の蒼《あお》ざめた顔を眺《なが》めて、
「しかし、小泉さんも御多忙《おいそが》しいでしょう」
「ええ、ええ、多忙《いそが》しい人です」と母は引取って、やがて三吉の方を見て、「父さん――貴方は御仕事の方を成すって下さい。何卒《どうぞ》お構いなく」
 名倉の母は茶を入れかえて、帰国するという養子にすすめ、茶の好きな娘の亭主にも飲ませた。
 
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