お雪はどうしたでしょう。こんなに遅くなっても、未だ帰りません。一寸私はそこいらまで行って見て来ます」
こう名倉の母に言って置いて、三吉は直樹の家まで妻を迎えに行った。
橋の畔《たもと》で彼はお雪の帰って来るのに行き逢った。
「父さん」
と声を掛けられて、三吉はやや安心したように、
「心配したぜ。こんなに遅くまで話し込んでるやつが有るもんか。もうすこしで、俺は直樹さんの家まで行っちまうところだった」
お雪は夫に寄添った。こうして二人ぎりで一緒に歩くということは、夫婦にはめったに無かった。三吉は妻を連れて、暗い道を静かに考深く歩いて帰った。
「――『一体お前はどういう積りで俺の許《ところ》へ嫁に来た』なんて、よく父さんがそんなことを私に言いますよ」
「へえ、父さんはそういう心でいるのかねえ」
こうお雪と母親とで話しているところへ、勉が商人風の服装《なり》をして、表から入って来た。勉は大阪まで行って来たことから、東京での商用も弁じた、荷積も終った、明日は帰国の途に就《つ》くことなぞを話した。この人とお雪の妹との間には、最早《もう》種夫と同年の子供がある。
「父さん、※[#「※」
前へ
次へ
全324ページ中213ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング