「一寸《ちょっと》歩いて来るなんて、大屋さんの裏の方へ出て行きました」
「じゃ、私も、お裏の方から廻って参りましょう」
 正太はその足で、植木屋の庭の方へ叔父を見つけに行くことにした。
 この地内には、叔父が借りて住むと同じ型の平屋《ひらや》がまだ外《ほか》にも二軒あって、その板屋根が庭の樹木を隔てて、高い草葺《くさぶき》の母屋《もや》と相対していた。植木屋の人達は新茶を造るに忙《せわ》しい時であった。縁日《えんにち》向《むけ》の花を仕立てる畠《はたけ》の尽きたところまで行くと、そこに木戸がある。その木戸の外に、茶畠、野菜畠などが続いている。畠の間の小径《こみち》のところで正太は叔父の三吉と一緒に成った。


 新開地らしい光景《ありさま》は二人の眼前《めのまえ》に展《ひら》けていた。ところどころの樹木の間には、新しい家屋が光って見える。青々とした煙も立ち登りつつある。
 三吉は眺め入って、
「どうです、正太さん、一年ばかりの間に、随分この辺は変りましたろう」
 と弟か友達にでも話すような調子で言って、茶畠の横手に養鶏所の出来たことなどまで正太に話し聞せた。
 何となく正太は元気が無
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