「ええ、ええ、そこどこじゃない」とお種は力を入れた。
 しばらく森彦は姉の横顔を眺めたが、やがて、
「この婆《ばば》サも、これで未だ色気が有る」
 と急所を衝《つ》くように言い放った。盛んな笑声が起った。一同の視線はお種の方へ集った。
「ウン有る――有る、有る」
 お種は口を尖《とが》らせて、激した調子で答えた。そして、ブルブル身体を震るわせた。
「風向が変って来ましたぜ」と三吉は戯れるように。
「今度は俺の方へお櫃《はち》が廻って来たそうな」とお種も笑い砕けた。
 お仙は手を振って笑った。
「しかし、串談はとにかく」とお種は浴衣の襟を掻合せて、「こう皆な集ることも、めったに無い。どうだ、豊世、お前も何か言うことがあらば――叔父さん達の前で言えや」
「母親さん、私は……別に言うことも有りません」
 と答えて、豊世は胸を押えながら、俯向《うつむ》いて了った。
 叔父達が夏羽織を引掛けて、起《た》ち上った頃は、対岸の灯も幽《かす》かに成った。混雑した心地《こころもち》で、一同は互に別れを告げた。
「いや、危いところ――」
 と森彦は正太の家を離れてから、三吉に言った。

       
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