て言った。
その時、豊世は起《た》って行って、水に近い雨戸を開けかけた。
「叔父さん、一枚開けましょう。もう夜が明けるかも知れません」
一夜の出来事は、それに遭遇《であ》った人々に取って忘られなかった。折角上京したお種も、お仙を連れての町あるきは可恐《おそろ》しく思われて来た。河の見える家に逗留《とうりゅう》して、皆なで一緒に時を送るということが、何よりお種|母子《おやこ》には楽しかった。
八月に入って、正太も家のものを相手に暮すような日があった。兄夫婦や妹の間に起る笑声は、過去った楽しい日のことをお種に想《おも》い起させた。下座敷の玻璃障子の外には、僅《わず》かばかりの石垣の上を丹精して、青いものが植えてある。お種は、郷里《くに》に居て庭の植木を愛するように、その草花の手入をしたり、綺麗に掃除したりした。
お種は草箒《くさぼうき》を手にして、石段の下へも降りて行った。余念なく石垣の草むしりをしていると、丁度そこへ三吉が路地の方から廻って訪ねて来た。お種はそれとも気がつかず、往来に腰を延ばして、自分の草むしりした跡を心地好さそうに眺めていた。三吉は姉の傍まで来た。まだお種は
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