にして、母は汚《よご》れた寝衣を脱がせた。そして、山を下りる時に着せて連れて来たヨソイキの着物の筒袖《つつそで》へ、お房の手を通させた。
「まあ、こんなに熱いんですよ」
とお雪が言うので、三吉はコワゴワ子供に触《さわ》ってみた。お房の身体は火のように熱かった。
「病院へ行って御医者様に診《み》て頂くんだよ――シッカリしておいでよ」と三吉は娘を励ました。
「母さん……前髪をとって頂戴《ちょうだい》な」
熱があっても、お房はこんなことを願って、リボンで髪を束ねて貰った。
頼んで置いた車が来た。先《ま》ずお雪が乗った。娘は、父に抱かれながら門の外へ出て、母の手に渡された。下婢《おんな》は乳呑児の種夫を連れて、これも車でその後に随《したが》った。
「延、叔父さんもこれから行って見て来るからネ、お前に留守居を頼むよ」
こう三吉は姪に言い置いて、電車で病院の方へ廻ることにした。慌《あわただ》しそうに彼は家を出て行った。
留守には、親類の人達、近く郊外に住む友人などが、かわるがわる見舞に来た。「延ちゃん、お淋《さび》しいでしょうねえ」と庭伝いに来て言って、娘を慰める小学校の女教師もあっ
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