「どうかすると、橋本の家は私で終《おしまい》に成るかも知れないぞ」
 正太は考深い眼付をした。
「旧い人は駄目だなんて、言ったって……新しい時代の人だって、頼甲斐《たのみがい》があるとは言われないネ」
「ナカナカ」
 その時、種夫が一生懸命に楼梯《はしごだん》につかまってノコノコ階下《した》から上って来た。ヒョッコリ頭を出したので、三吉は子供の方へ起《た》って行った。
「オイ、お雪、危いねえ」と三吉は階下へ聞えるように怒鳴った。
「種ちゃんはもう、ずんずん独《ひと》りで上るんですもの」とお雪は階下から答えた。
「なんだか危くって仕様がない。早く来て、連れておいで」
「種ちゃんいらッしゃい」
「ア、到頭上って来ちゃった」
 と正太も種夫の方を見て笑った。
 そのうちに暮れかかって来た。町々の屋根は次第に黄昏時《たそがれどき》の空気の中へ沈んで行った。製造場の硝子戸には、未だ僅《わず》かに深い反射の色が残った。下婢《おんな》は階下《した》から洋燈《ランプ》を持って上って来た。三吉はマッチを摺《す》った。二階には燈火《あかり》が点《つ》いた。正太はそれを眺めて、自分の家の方でも最早燈火が点い
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