い》に坐った。
「叔母さん、すこし吾家《うち》も片付きました。ちと何卒《どうぞ》被入《いらし》って下さい。経師屋《きょうじや》を頼みまして、二階から階下《した》まですっかり張らせました」
「正太さんの今度の御家は大層見晴しが好いそうですネ」
「ええ、まあ川はよく見えます。そのかわり蛞蝓《なめくじ》の多いところで、これには驚きました。匍《は》った痕《あと》が銀色して光っています。なんでもあの辺から御宅あたりへ掛けて、蛞蝓が名物ですトサ……叔父さんも何卒《どうぞ》復たお近いうちに……御宅から吾家《うち》までは、七八町位のものですから、運動かたがた歩いて被入《いらっ》しゃるには丁度好う御座んす」
 夕日は部屋の内に満ちて来た。河岸の方から町中へ射し込む光線は、屋根と屋根の間を折れ曲って、ある製造場の高い硝子《ガラス》を燃えるように見せた。お雪は縁側へ出て町の空を眺《なが》めたが、やがて子供の泣声を聞いて、階下《した》へ下りて行った。
「正太さん、女達の間に一つ問題が持上っています。兄貴の家も妙なことに成りましたろう。娘があっても、後を継がせるものが無い。俊が嫁に行って了えば、もうそれッきりと
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