「父さん、御茶が入りました」
 とお雪は楼梯《はしごだん》の下から声を掛けたので、三吉も下りて来た。三人一緒に成ってからは、三吉も機嫌《きげん》を直した。叔母や姪は睦《むつ》まじそうに笑った。
 何処までもお俊は気をタシカに持って、言うことだけは叔父に言って置こうという風で、
「叔父さん――昨日母親さんに御話が有ったそうですが、宗蔵叔父さんと一緒に成ることは御断り申します」
 と帰りがけに、口惜《くや》しそうに言った。
 三吉は苦笑した。腹《おなか》の中で、「なにも俺は、無理に一緒に成れと言ったんじゃ無いんだ――串談《じょうだん》半分に、一寸そんなことを言って見たんだ――お前達はそう釈《と》って了うから困る」こうも思ったが、あまりお俊にキッパリ出られたので、それを言う気に成らなかった。
 姪が帰って行った後で、三吉は深い溜息《ためいき》を吐《つ》いた。
「何故、俊はああだろう」
 とお雪に言って見た。叔父の心は姪に解らず、姪の心は叔父に解らなかった。


 不意な出来事が実の留守宅に起った。お鶴を病院へ入れなければ成らない。この報知《しらせ》を持って、お延は三吉の家へ飛んで来た。不
前へ 次へ
全324ページ中155ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング