家めいた口調に成ることを、深く羞《は》じていた。そして、言うことが何となく虚偽《うそ》らしく自分の耳にも響くことを、心苦しく思っていた。不思議にも、彼はそれをどうすることも出来なかった……お俊の結婚に就《つ》いても、もっとユックリした気分で、こうしたら可かろうとか、ああしたら可かろうとか、種々話してやりたいと心に思っていた。妙に口へ出て来なかった……唯……「叔母さんの留守に、叔父さんは私の手を握りました――」と人に言われそうな気がして、お俊の顔を見ると何事《なんに》も言えなかった。どんな為になることを言っても、為《し》ても、皆なその一点に打消されて了うような気もした。三吉は心配して作って置いた約束の金を取出した。苦しむ獣のような目付をして、それを姪の前に置いた。
「何故、叔父さんはこうだろう……」
とお俊は自分で自分に言ってみて、宗蔵の世話料を受取った。
長くも居られないような気がして、お俊は一寸礼を述べて、やがて階下《した》へ下りた。
お雪の居る部屋には、仕事が一ぱいにひろげてあった。叔母は長火鉢のところで茶を入れて、キヌカツギなぞを取出しながら、姪と一緒に上野や向島の噂をした
前へ
次へ
全324ページ中154ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング