さんが窮《こま》って来たら、『窮るなら散々御窮りなさい……よく御考えなさい……是処《ここ》は貴方の家じゃ有りません』ッて。もし真実《ほんとう》に達雄さんの眼が覚《さ》めて、『乃公《おれ》はワルかった』と言って詫《わ》びて来る日が有りましたら、その時は主人公の席を設けて、そこで始めて旦那を迎えたら可いでしょうッて――」
 幸作は深い溜息《ためいき》を吐《つ》いた。
「実に妙なものです。ここは私も一つ蹈張《ふんば》らんけりゃ不可《いかん》、と思って、大御新造の前では強いことを言っていますが……時々私は夢を見ます。大旦那が大黒柱に倚凭《よりかか》って、私のことを『幸作!』と呼んでいるような――あんなヒドイ目に逢いながら、私はよくそういう夢を見ます。すると、眼が覚めた後で、私はどんな無理なことでも聞かなければ成らないような気がします……」
 こう話しているところへ、お雪が湯から帰って来た。三吉は妻の方を見て、
「オイ、幸作さんから橋本の薬を頂いたぜ」
「毎度子供の持薬に頂かせております」
 とお雪は湯上りのすこし逆上《のぼ》せたような眼付をして、礼を言った。
 幸作の話は若旦那のことに移った。
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