からも、いずれ何か小言が出る。それを僕は予期していた。果してこんなものを送って寄した」
「何の洒落《しゃれ》だい」
「こりゃ、君、僕に……溺死《できし》するなという謎《なぞ》だネ」
「意見の仕方にもいろいろ有るナア」
幹部の人達は皆な笑った。
その日、正太は種々な感慨に耽《ふけ》った。不取敢《とりあえず》叔父へ宛てて、自分もまた男である、素志を貫かずには置かない、という意味を葉書に認めた。仕事をそこそこにして、横手の格子口から塩瀬の店を出た。細い路地の角のところに、牛乳を温めて売る屋台があった。正太はそれを一合ばかり飲んで、電車で三吉の家の方へ向った。
叔父の顔が見たくて、寄ると、丁度長火鉢の周囲《まわり》に皆な集っていた。正太は叔父の家で、自分の妻とも落合った。
「正太さん、妙なものが行きましたろう」
と三吉は豊世やお雪の居るところで言って、笑って、他の話に移ろうとした。豊世は叔父と相対《さしむかい》の席を夫に譲った。自分の敷いていた座蒲団を裏返しにして、夫に勧めた。
「叔父さん、確かに拝見しました」と正太が言った。「私から御返事を出しましたが、それは未だ届きますまい」
豊
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