なり、豊世なりだ。余程彼よりは上手《うわて》だ。吾儕《われわれ》の親類の中で、彼の細君が一番エライと俺は思ってる。細君に心配されるような人間は高が知れてるサ」
「ですけれど――私は、貴方が言うほど正太さんを安くも見ていないし、貴方が買ってる程には、橋本の姉さんや豊世さんを見てもいません。丁度姉さんや豊世さんは貴方が思うような人達です。しかし、あの人達は自分で自分を買過ぎてやしませんかネ」
「そうサ。自分で高く買被《かいかぶ》ってるようなところは有るナ」
兄は弟の顔をよく見た。
「女の方の病気さえなければ、橋本|父子《おやこ》に言うことは無い――それがあの人達の根本《おおね》の思想《かんがえ》です。だから、ああして女の関係ばかり苦にしてる。まだ他に心配して可いことが有りゃしませんか。達雄さんが女に弱くて、それで家を捨てるように成った――そう一途《いちず》にあの人達は思い込んで了うから困る」
兄は、弟が来て、一体誰に意見を始めたのか、という眼付をした。
「しかし」と三吉はすこし萎《しお》れて、「正太さんも、仕事をするという質《たち》の人では無いかも知れませんナ」
「彼が相場で儲けたら、
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