と、なんですかこう三人別のものがそこへ出て来るような気がします――極く幼少《ちいさ》い時分と、学校に居た娘の頃と、それからお嫁に来てからと――三つずつ別々の自分じゃないかと思うような、まるでその間が切れちゃってるようなものです……私は子供の時分には、真実《ほんと》に泣いてばかりいるような児でしたからねえ……」真に心の底から出て来たような調子で、彼女は話した。
 すこしトロトロしたかと思うと、復た二人とも眼が覚めた。
「お雪、何時だろう――そろそろ夜が明けやしないか――今頃は、正太さんの死体《からだ》が壮《さか》んに燃えているかも知れない」
 こう言いながら、三吉は雨戸を一枚ばかり開けて見た。正太の死体が名古屋の病院から火葬場の方へ送られるのも、その夜のうちと想像された。屋外《そと》はまだ暗かった。



底本:「家(下)」新潮文庫、新潮社
   1955(昭和30)年5月10日発行
   1968(昭和43)年4月30日第18刷改版
   1998(平成10)年9月5日50刷
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:(株)モモ
校正:藤田禎宏
2000年12月5日公開
2000年12月10日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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