白々する頃には、豊世も床を離れて、何かゴトゴト言わせていた。お種は雪洞《ぼんぼり》を持って新座敷の方へ行った。
「豊世、お前も行って了うかい」
「母親さん達は昨夜遅くまで話していらっしゃいましたネ」
「碌に寝すか」
「何だかぼそぼそぼそぼそ声がしてましたが、そのうちに私は寝て了いました」
「豊世――俺はツマランよ」
お仙は未だ眼を覚さなかった。思わずお種は娘の枕許《まくらもと》で泣いた。
三吉と一緒に朝茶を飲む頃のお種は、前の晩とは別の人のようであった。
「折角来てくれたのに」とお種はサッパリした調子で、「今度はイヤな話ばかり聞かせましたネ」
「三晩とも話し続けだ」
「いや、どうしてオオヤカマシ」
姉弟は顔を見合せて笑った。
豊世も仕度が出来た。やがて出発の時が来た。炉辺には、お種をはじめ、お仙、幸作夫婦、薬方の衆まで集って、一緒に別離《わかれ》の茶を飲んだ。
三吉達を見送ろうとして、お島とお仙の二人は町はずれまで随いて来た。
こういう道中をあまりしたことの無い豊世は、三吉と一緒に余儀なく歩かせられた。旧《ふる》い木曾路は破壊される最中であった。時々、岩石の爆裂する音が起った。大きな石の塊が可恐《おそろ》しい響をさせて、高い崖《がけ》の上から紅葉した谷底の方へゴロゴロ転《ころ》がり落ちて行った。
「女が、独りでなんぞ、とても通られる時じゃ有りませんネ」
と豊世は叔父に随いて歩きながら言った。
都会風な豊世の風俗は、途中に仕事をしている労働者の眼を引き易《やす》かった。どうかすると、十人も二十人も「ツルハシ」を手にした工夫の群が集って、石や土を運ぶことを休《や》めて、道を塞《ふさ》いでいた。
大きな森林は三吉の眼前《めのまえ》に展《ひら》けて来た。路傍《みちばた》には自然と足を留めさせるような休茶屋がある。樹木の間から、木曾川の流れて行くのが見える。そういうところへ寄って、三吉が豊世を休ませようとすると、かみさんが茶を運んで来て、「奥さんは、今日は何処《どちら》から?」などと聞く。豊世はハニカンでもいなかった。自分のことは言わずに、三吉の方を指して、
「あれは、私の叔父さんですよ」
こう笑いながら答える。この笑いが反《かえ》って休茶屋のかみさんを戯れるように思わせた。復た二人は笑って出掛けた。
停車場の新設された駅へ着いたは、日暮に近かった。豊世
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