ずつ下婢《おんな》に連れられて、町の湯から帰った。銀造も洗って貰いに行って来た。お雪は傘《かさ》をさして、終《しまい》に独りで泥濘《ぬか》った道を帰って来た。
明るい空からは、軽い綿のようなやつがポタポタ落ちた。お雪は足袋《たび》も穿《は》いていなかった。多くの女のように、薄着でもあった。それでも湯上りのあたたかさと、燃えるような身体の熱とで、冷々《ひやひや》とした空気を楽しそうに吸った。濡《ぬ》れた町々の屋根は僅《わず》かに白い。雪は彼女の足許《あしもと》へも来て溶けた。この快感は、湯気で蒸された眼ばかりでなく、彼女の肌膚《はだ》の渇《かわき》をも癒《いや》した。
「長い湯だナア」と母は、帰って来たお雪を見て、叱るように言った。
「だって、子供を連れてるんですもの」
こうお雪は答えて置いて、勝手の方へ通り抜けた。
冷い水道の水はお雪を蘇生《いきかえ》るようにさせた。彼女は額の汗をも押拭《おしぬぐ》った。箪笥《たんす》の上には、家のものがかわるがわる行く姿見がある。彼女はその前に立った。細い黄楊《つげ》の鬢掻《びんかき》を両方の耳の上に差した。濡れて乱れたような髪が、その鏡に映った。
「叔母さん、お湯のお帰り?」
こう正太が、お雪の知らないうちに入って来て、声を掛けた。正太は叔母の後を通過ぎて、楼梯《はしごだん》を上った。
「正太さん、よくこの道路《みち》の悪いのに、御出掛でしたネ」
と三吉は二階に居て迎えた。
「ええ、叔父さんの許より外に、気を紛らしに行く処も有りませんから」
こう言って、正太は、長い紺色の絹を首に巻付けたまま、叔父の前に坐った。部屋の障子の玻璃《ガラス》を通して、湿った屋外《そと》の空気が見られる。何となく正太は向島の方へ心を誘われるような眼付をしていた。
「いかにも春の雪らしい感じがしますネ」と正太は叔父と一緒に屋外《そと》を眺めながら言った。
「正太さん、昨日僕は森彦さんの宿へ行ってネ。金の話が出ました。その序《ついで》に、種々《いろいろ》なことを話し込んだ。田舎へ行ったらどうです、それまで僕は言って見た――午後の三時から八時頃まで話した」
「や、そいつはエラかった。三時から八時に渡ったんじゃ――どうして。森彦叔父さんと貴方の対話が眼に見えるようです」
「しかし、話してみて、互に了解する場合は少いネ。僕の方で思うことは、真実《ほん
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