とは無い。今までは儲けようと思わなかったから、儲からなかった。これからは大いに儲けようと思うんだ――ナニ、いかないことは無い」
「どうも私は、今までと同じように成りやしないかと思って、それで心配してるんです……何だか、こう、吾儕《われわれ》には死んだ阿爺《おやじ》が附纏《つきまと》っているような気がする……何処へ行って、何を為《し》ても、必《きっ》と阿爺が出て来るような気がする……森彦さん、貴方はそんなこと思いませんかネ」
 兄は黙って弟の顔を見た。
「私はよくそう思いますが」と三吉は沈んだ眼付をして、「橋本の姉さんがああしているのと、貴方がこの旅舎《やどや》に居るのと、私が又、あの二階で考え込んでいるのと――それが、座敷牢の内に悶《もが》いていた小泉忠寛と、どう違いますかサ……吾儕は何処へ行っても、皆な旧《ふる》い家を背負って歩いてるんじゃ有りませんか」
「そうさナ……」
「そいつを私は破壊《ぶちこわ》したいと思うんです。折があったら、貴方にも言出してみようみようと思っていたんです……」
「待ってくれ――俺も直《じ》き五十だよ。五十に成ってサ、未だそれでも俺の思うように成らなかったら、その時はお前の意見を容《い》れる。田舎へでも何でも引込む。それまで待ってくれ」
「いえ、私はそういう意味で言ってるんじゃ無いんです……」
「それはそうと、先刻《さっき》の金のことはどうしてくれる」
「何とか工面して見ましょう。いずれ御返事します」
「そんなことを言わないで、確かに是処《ここ》で引受けて帰ってくれ」と言って、森彦は調子を変えて、「今日は、貴様は、ドエライやつを俺の許《とこ》へ打込みに来たナ――いや、しかし面白かった」
 兄は高い声で笑った。
 晩の八時過に、三吉はこの旅舎を辞した。電車で帰って行く途中、彼は兄の一生を思いつづけた。家へ入ると、お雪は夫から帽子や外套《がいとう》を受取りながら、
「森彦さんのとこでは、どんな御話が有りました」と尋ねた。
「ナニ、金の話サ」と三吉は何気なく答える。
「大方そんなことだろうッて、阿爺《おとっ》さんも噂《うわさ》していましたッけ――阿爺さんが貴方のことを、『父さんも余程兄弟孝行だ』なんて――」


 夜中から降出した温暖《あたたか》な雨は、翌朝《よくあさ》に成って一旦|休《や》んで、更に淡い雪と変った。
 午後に、種夫や新吉は一人
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