で、船は多く川上の方へ向っていた。
「大橋の火見櫓《ひのみやぐら》だけは、それでも変らずに有りますネ」
と正太が眺めながら言った。
青い潮の反射は直に人を疲れさせた。三吉は長く立って見てもいられないような気がした。正太を誘って、復た歩き出した。
大橋まで行って引返して来た頃、三吉は甥の萎《しお》れている様子を見て、
「正太さん、向島にはチョクチョクお逢《あ》いですか」と言って見た。
「サッパリ」
「へえ、そんなかネ」
「威勢の悪いこと夥《おびただ》しいんです。向島が私に、茶屋でばかり逢うのも冗費《ついえ》だから、家へ来いなんて……そうなると、先方《さき》の母親《おっか》さんが好い顔をしませんや。それに、芸者屋へ入り込むというやつは、あまり気の利《き》いたものじゃ有りませんからネ」
と言いかけて、正太は対岸にある建物を叔父に指して見せて、
「彼処《あすこ》に会社が見えましょう。あの社長とかが向島を贔顧《ひいき》にしましてネ、箱根あたりへ連れてったそうです。根引《ねびき》の相談までするらしい……向島が、どうしましょうッて私に聞きますから、そんなことを俺《おれ》に相談する奴が有るもんか、どうでもお前の勝手にするサ、そう私が言ってやった……でも、向島も可哀相です……私の為には借金まで背負って、よく私に口説《くど》くんです、どうせ夫婦に成れる訳じゃなし……」
正太は黙って了《しま》った。三吉も沈んだ眼付をして、しばらく物を言わずに歩いた。
「そうそう」と正太は思い付いたように笑い出した。「ホラ、此頃《こないだ》、雪の降った日が有りましたろう――ネ。あの翌日でサ。私が河蒸汽で吾妻橋《あずまばし》まで乗って、あそこで上ると、ヒョイと向島に遭遇《でっくわ》しました。半玉を二三人連れて……ちっとも顔を見せないが、どうしたか、この雪にはそれでも来るだろうと思って、どれ程待ったか知れない、今日はもうどんなことがあっても放さない、そう言って向島が私を捕《つかま》えてるじゃ有りませんか。今日は駄目だ、紙入には一文も入ってやしない、と私が言いますとネ、御金のことなんぞ言ってるんじゃ有りませんよ、私がどうかします、一緒にいらしって下さい、そう向島が言って置いて、チョイト皆さん手を貸して下さいッて、橋の畔《たもと》にいる半玉を呼んだというものです――到頭、あの日は、皆なで寄《よ》って群《
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