七

 昼間から花火の音がする。
 両国に近い三吉の家では、毎年川開の時の例で、親類の娘達を待受けた。豊世も、その日約束して置いて、誰よりも先にお雪のところへ遊びに来ていた。
「よくそれでも、叔母《おば》さんは子供の世話を成さいますねえ」
「私だって心から子供が好きじゃ有りません」
 叔母のような家庭的な人の口から、意外な答を聞いたという面持で、豊世は母衣蚊屋《ほろがや》の内にスヤスヤ眠っている乳呑児《ちのみご》の方を眺めた。そこへ二番目の新吉を背負《おぶ》った下婢《おんな》に連れられて、種夫が表の方から入って来た。
「種ちゃんも、新ちゃんも、オベベを着更えましょう。今に姉さん方がいらっしゃるよ」とお雪が言った。
「どれ、種ちゃんは叔母さんの方へいらっしゃい」と豊世は種夫に手招きして見せて、「豊世叔母さんが好くして進《あ》げましょうネ」
 幼い兄弟は揃《そろ》いの新しい浴衣《ゆかた》に着更えた。丁度、三吉は町まで用達《ようたし》に出掛けた時で、子供に金魚を買って戻って来た。
「正太さんは?」
 三吉は豊世の顔を見て尋ねた。お種を送りながら郷里《くに》の方へ行った正太も、最早引返して来ていた。
「宅は後から伺いますって」と豊世は微笑《ほほえ》んで、「どうして、宅がこんな日に静止《じっと》していられるもんですか」
「今、豊世さんから伺ったんですが」とお雪は夫に、「塩瀬の御店もイケなく成ったそうです」
「叔父さんは未だ御聞きに成りませんか」と豊世が言った。
「いよいよ駄目なんですか。好い店のようでしたがナ。そいつは正太さんも気の毒だ」
「真実《ほんと》に相場師ばかりは、明日のことがどう成るか解りませんネ。川向に居ます時分――あの頃のことを思うと、百円位のお金は平素《しょっちゅう》紙入の中に入っていたんですがねえ」と言って、豊世は萎《しお》れて、「そう言えば、森彦叔父さんにああ言って頂いたんで、宜う御座んしたよ。あのお金を借りて持っていようものなら、それこそ――今頃はどう成っているか解りません」
 三吉はお雪と顔を見合せた。
「私もツマリませんから、花火でも見て遊びますわ」と豊世は嘆息した。
 お雪は着物を着更えた。豊世は叔父から巻煙草を分けて貰って、眼を細くしながらそれを吸った。三吉も煙草を燻《ふか》していたが、やがて独《ひと》りで二階へ上って行った。


 黄色い花火
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