吉は河の方を見ていた。森彦は正太を諭《さと》すように、みすみす三吉に迷惑の掛るものを黙って観ている訳には行かぬ、証文に判をつけ――実も達雄も皆な同じ行き方で親類を倒している――こう腕まくりで言出した。
「そういうことなら、叔父さん、この話は断然止めましょう」
と正太はキッパリ答えた。
お種が階下《した》から煙草盆を提《さ》げて談話《はなし》の仲間入に来た頃は、森彦の声は高かった。ウンと言わなければ気の済まないのがこの叔父の癖で、お種や正太を前に置きながら、盛んに橋本|父子《おやこ》を攻撃し始めた。叔父の目から見ると、正太の相場学なぞは未だ未だ幼稚なもので、仲買人のナの字にも行っておらぬ。こんなことが森彦の口を衝《つ》いて出て来た。
その時、豊世もお仙と一緒に、浴衣《ゆかた》でやって来た。叔父の猛烈な語勢が、階下《した》にいる老婆《ばあさん》はおろか、どうかすると隣近所までも聞えそうなので、心の好いお仙は沈着《おちつ》いていられないという風であった。母の傍へ行ったり、兄の顔を眺めたりして、ハラハラしていた。
「森彦――お前の言うことは、好く解った……好く解った……正太も、叔父さんの言うことをよく聞いて置いて、橋本の家を興してくれるが可いぞや……ええ、ええ、それを忘れるようなことじゃ、申訳が無いで……」
こうお種は言いかけたが、興奮のあまり声が咽喉《のど》へ乾干《ひから》び付いたように成った。豊世も姑《しゅうとめ》の側に考深い眼付をして、女持の煙管《きせる》で煙草を燻《ふか》していた。
「今までの家風は、皆なが言うことを言わなさ過ぎたと思いますわ」と豊世は顔を揚げて、「母親さん、これから皆なでもっと言うことにしようじゃ有りませんか」
軽い、無邪気な、お仙の笑声が起った。
漸《ようや》く、一同、笑って話すことが出来るように成った。森彦も愛嬌《あいきょう》のある微笑《えみ》を見せて、
「なんでも人間は信用が無くちゃ駄目だ。俺なんかも、十年一日のごとしで、志ばかり徒《いたずら》に大きいようなものだが、信用を失わないように心掛けているんで持ってる……」
「そうサ。お前は酒も飲まず、煙草も服《の》まず――そこは一寸|真似《まね》の出来ないところだ」とお種が言った。
「これで何だぞい、俺は旅舎生活《やどやぐらし》を始めてから、唯の二度しか引手茶屋へも遊びに行ったことが無
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