東京を発つことにした。買物やら、荷造やら、いそがしい思をした。その時、三吉は実の居るところへ行って、一と先《ま》ず宗蔵の世話を断《ことわ》った。
「あれはすこし無理だった――俺の方が無理だった」
と実は笑いながら点頭《うなず》いた。
名倉の母や兄からは、停車場《ステーション》までは見送らないと言って、お雪の許へ箪笥を買う金を二十円ほど届けて来た。別離《わかれ》の言葉が取換《とりかわ》された。三時頃には、夫婦は上野の停車場へ荷物と一緒に着いた。多くの旅客も集って来ていた。
暗くなって三吉夫婦は自分等の新しい家に着いた。汽車の都合で、途中に一晩泊って、猶《なお》さ程旅を急がなかった為に、復た午後から乗って来た。その日のうちに着きさえすれば可い、こういう積りであったので。お雪は汽車を降りるから自分の家の庭に入るまで、暗い、知らない道を夫に連れられて来た。
庭を上ると、直ぐそこは三尺四方ばかりの炉を切った部屋で、炉辺《ろばた》には年若な書生が待っていた。この書生は三吉が教えに行く学校の生徒であった。
「明日は月曜ですから、最早それでも御帰りに成る頃かと思って、御待ち申していました」
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