と書生はお雪に挨拶した後で言った。
「大分ユックリやって来ました」と三吉も炉辺に寛《くつろ》いだ。
お雪は眺《なが》め廻しながら、
「へえ、こういうところですか」
と言って、書生に菓子などを出して勧めた。先ず眼につくものは、炉に近い戸棚、暗い煤《すす》けた壁、大きな、粗末な食卓……
「ここは士族屋敷の跡なんだそうだ」と三吉は妻に言い聞かせた。「後の方に旧《もと》の入口があるがね、そこは今物置に成てる。僕等が入って来たところは、先に住んだ人が新規に造《こしら》えた入口だ。どうも、酷《ひど》い住方をして行ったものサ。壁を張る、畳を取替える――漸《ようや》くこれだけに家らしくしたところだ。この炉も僕が来てから造り直した」
書生は物置部屋の方から奥の洋燈《ランプ》を点《つ》けて出て来た。三吉はそれを受取って、真暗な台所の方へ妻を連れて行て見せた。広い板間《いたのま》、立て働くように出来た流許《ながしもと》、それからいかにも新世帯らしい粗末な道具しかお雪の目に入らなかった。台所の横手には煤けた戸があった。三吉はそれを開けて、そこに炭、薪、ボヤなどの入れてあることを言って、洋燈を高く差揚げて
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