垣の細君は娘の顔を眺めて言った。
「何だか小母《おば》さんの身体まで震えて来た」
こうお杉は細君の手から娘を抱取るようにして笑った。
静かな夜であった。上野の鐘は寂《しん》とした空気に響いて聞えて来た。留守居の女達は、楽しい雑談に耽《ふけ》りながら、皆なの帰りを待っていた。
柱時計が十時を打つ頃に成って、一同車で帰って来た。急に家の内は人で混雑《ごたごた》した。
「どうも名倉さんの母親《おっか》さんには感心した。シッカリしたものだ」
こう実と稲垣とは互に同じようなことを言った。復た酒が始まった。その時、三吉の妻は家の人々や稲垣の細君などに引合わされた。
「お俊ちゃん、叔母さんが一人増えたことね」と稲垣の娘が言った。
「ええ、そうよ、お雪叔母さんよ」とお俊も笑った。
「稲垣さん、種々《いろいろ》御尽力で難有《ありがと》う御座いました」と実は更に盃を差した。
「酒はもう沢山」と稲垣は手を振って、「今夜のように私も頂いたことは有りません」
「こんな嬉しいことは無い」と実は繰返し言った。「私一人でも今夜は飲み明かさなくちゃ成らん」
「三吉――宗蔵はお前の方へ頼む。今度田舎へ行く序《
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