にばかり引込みきりなんですよ……用が有る時はどうするなんて、三吉なぞは不思議に思うかも知れないが、買物には小僧も居れば、下婢《おんな》も居る。嘉助始め皆なで外の用を好く達《た》してくれる。ですから、私は家を出ないものとしていますよ……女というものは、お前さん、こうしたものですからね」
こんな話を弟にして聞かせて、それから直樹が訪ねて行った親戚の家々を指して見せた。いずれも風雪を凌《しの》ぐ為に石を載せた板屋根で、深い木曾山中の空気に好く調和して見える。
「母親《おっか》さん、沢田さんがお出《いで》た」
とそこへお仙が客のあることを知らせに来た。三人は一緒に母屋《もや》の方へ降りて行った。
物置蔵の側《わき》を帰りかけた頃、お種は娘と並んで歩きながら、
「お仙や、お前は三吉叔父さん、三吉叔父さんと、毎日言い暮していたッけが――どうだね、三吉叔父さんが被入《いら》しって嬉しいかね」
と母に言われて、お仙はどう思うことを言い表して可いか解らないという風であった。この無邪気な娘は、唯、「ええ、ええ」と力を入れて言っていた。
庭伝いに奥座敷へ上ってから、お種は沢田という老人を三吉に紹介
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