関《かか》わる」と実の眼が言った。
三吉は兄に金を費《つか》わせることを心苦しく思った。結婚の準備《したく》もなるべく簡単にしたい、借金してまで体裁をつくろう必要は無い、と思った。小泉実はそれでは済まされなかった。
お俊も小学校の卒業に間近く成って、これから何処の高等女学校へ入れたら可《よ》かろうなどと相談の始まる頃には、三吉の前にも二つの途《みち》が展《ひら》けていた。一つは西京の方に教師の口が有った。一つは往時《むかし》英語を学んだ先生から自分の学校へ来てくれないかとの手紙で、是方は寂しい田舎ではあり、月給も少かった。しかし三吉は後の方を択んだ。
春の新学期の始まる前、三吉は任地へ向けて出発することに成った。仙台の方より東京へ帰るから、この田舎行の話があるまで――足掛二年ばかり、三吉も兄の家族と一緒に暮してみた。復た彼は旅の準備《したく》にいそがしかった。彼は小泉の家から離れようとした。別に彼は彼だけの新しい粗末な家を作ろうと思い立った。
四
三吉は発《た》って行った。一月ばかり経って、実は大島先生からの電報を手にした。名倉の親達は娘を連れて、船に乗込む
前へ
次へ
全293ページ中85ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング