も衝突《ぶつか》ったものでしょうかナア」
「皆な自分から求めたことだ。それを彼が思ったら、もうすこし閉口しておらんけりゃ成らん。土台間違ってる……多勢兄弟が有ると、必《きっ》とああいう屑《くず》が一人位は出て来る……何処《どこ》の家にもある」
 宗蔵の話が出ると、実は口唇《くちびる》を噛《か》んで、ああいう我儘《わがまま》な、手数の掛る、他所《よそ》から病気を背負って転がり込んで来たような兄弟は、自分の重荷に堪えられないという語気を泄《もら》した。そればかりではない、実が宗蔵を嫌《きら》い始めたのは、一度宗蔵が落魄《らくはく》した姿に成って故郷の方へ帰って行った時からであった。その頃は母とお倉とで家の留守をしていた。お倉は未だ若かった。
「兄弟に憎まれれば、それだけ損だがナア」と実は嘆息するように言った。「いずれ宗蔵の為には、誰か世話する人でも見つけて、其方《そっち》へ預けて了おうと思う――別にでもするより外に仕様のない人間だ」


 三吉も書生ではいられなくなった。家を持つ準備《したく》をする為には、定《きま》った収入のある道を取らなければ成らなかった。彼は学校教師の口でも探すように
前へ 次へ
全293ページ中82ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング