んごばたけ》のようなところへ追詰められて、樹と樹の間へ私の身体が挾《はさま》って、どうにも逃げ場を失って了った……もうすこしで其奴《そいつ》に捕まるかしらん……と思ったら目が覚《さ》めました。汗はビッショリ……」
「お前さん達の見る夢は、どうせそんなものだ」
 と姉は復《ま》た嘲るように笑った。
 御輿の近づいたことを、お仙が報《しら》せに来た。女連《おんなれん》は門の外まで出た。そこから家々の屋根、町の中央を流れる木曾川が下瞰《みおろ》される。三吉は長過ぎるような羽織を借りて着て、達雄と一緒に崖《がけ》の下へ降りた。



 御輿の通り過ぎた後、お種は娘に下婢《おんな》を付けて祭を見せにやり、自分は門の内へ引返した。店口の玄関のところには、手代の幸作が大きな薬の看板に凭《もた》れながら、尺八を吹いて遊んでいたが、何時《いつ》の間にかこれも出て行った。広い家の内にはお種一人残った。
 急に周囲《そこいら》が闃寂《しんかん》として来た。寺院《おてら》のように人気《ひとけ》が無かった。お種は炉辺《ろばた》に坐って独《ひと》りで静かに留守居をした。この祭には、近在の若い男女《おとこおんな》は
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