じゃ御貰い申して参りやすかナア。鍬なんつものは、これで孫子の代までも有りやすよ」
小使は百姓らしい大きな手を揉んで、やがて庭の隅《すみ》に立掛けてある鍬を提《さ》げて出て行った。
出発の日は、朝早く暖い雨が通過ぎた。長い間溶けずにいた雪の圧力と、垂下った氷柱《つらら》の目方とで、ところどころ壊《こわ》れかかった北側の草屋根の軒からは、隣家《となり》の方から壁伝いに匍《は》って来る煙が泄《も》れた。丁度、庭も花の真盛りであった。
隣家のおばさんは炊立《たきたて》の飯に香の物を添えて裏口から運んで来てくれた。三吉夫婦は、子供等と一緒に汚《よご》れた畳の上に坐って、この長く住慣れた家で朝飯を済ました。そのうちに日が映《あた》って来た。お房やお菊は近所の娘達に連れられて、先《ま》ず停車場を指して出掛けた。
道普請《みちぶしん》の為に高く土を盛上げた停車場前には、日頃懇意にした多勢の町の人達だの、学校の同僚だの、生徒だのが集って、名残《なごり》を惜んだ。そこまで夫婦を追って来て、餞別《せんべつ》のしるしと言って、物をくれる菓子屋、豆腐屋のかみさんなども有った。三吉の同僚に、親にしても好い
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