る部屋へ入って、身じまいする道具を展《ひろ》げた。そこは以前書生の居た静かな部屋で、どうかすると三吉が仕事を持込むこともある。家中で一番引隠れた場処である。お種が大事にして旅へ持って来た鏡は、可成《かなり》大きな、厚手の玻璃《ガラス》であった。それに対《むか》って、サッパリと汗不知《あせしらず》でも附けようとすると、往時《むかし》小泉の老祖母《おばあさん》が六十余に成るまで身だしなみを忘れずに、毎日薄化粧したことなどが、昔風の婦人《おんな》の手本としてお種の胸に浮んだ。年のいかない芸者|風情《ふぜい》に大切な夫を奪去られたか……そんな遣瀬《やるせ》ないような心も起った。残酷なほど正直な鏡の中には、最早|凋落《ちょうらく》し尽くした女が映っていた。肉が衰えては、節操《みさお》も無意味で有るかのように……
頬の紅いお房の笑顔が、伯母の背後《うしろ》から、鏡の中へ入って来た。
「房ちゃん、お前さんにもお化粧《つくり》して進《あ》げましょう――オオ、オオ、お湯《ぶう》に入って好い色に成った」
と言われて、お房は日に焼けた子供らしい顔を伯母の方へ突出した。
やがてお種はお房を連れて、お雪の
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