「妙なものだテ」は弟を笑わせた。その前置を言出すと、必《きっ》とお種は夫の噂を始めるから。
「旦那も来年は五十ですよ。その年に成っても、未だそんな気でいるとは。実に、ナサケないじゃ有りませんか……男というものは可恐《おそろ》しいものですネ……私が旦那の御酒に対手《あいて》でもして、歌の一つも歌うような女だったら好いのかも知れないけれど――三吉さん、時々私はそんな風に思うことも有りますよ」
 苦笑《にがわらい》したお種の頬《ほお》には、涙が流れて来た。その時彼女は達雄が若い時に秀才と謳《うた》われたことや、国を出て夫が遊学する間彼女は家を預ったことや、その頃から最早夫の病気の始まったことなどを弟に語り聞せた。
「ある時なぞも――それは旦那が東京を引揚げてからのことですよ――復た病気が起ったと思いましたから、私が旦那の気を引いて見ました。『むむ、あの女か――あんな女は仕方が無い』なんて酷《ひど》く譏《けな》すじゃ有りませんか。どうでしょう、三吉さん、最早旦那が関係していたんですよ。女は旦那の種を宿しました。その時、私もネ、寧《いっ》そその児を引取って自分の子にして育てようかしら、と思ったり
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