動揺《ごたごた》してるわい……しかしネ、豊世、ここで家の整理が付きさえすれば、お前を正太《しょうた》が困らすようなことは無いぞや……」
こういう話に成ると、お種は酷《ひど》く大ザッパな物の考えようをすることが有った。往時《むかし》は橋本の家の経済まで薬方の衆が預って、お種は奥を守りさえすれば好い人であった。
翌日お種は森彦の宿の方へ移ることにした。聞いてみると、嫁の側にも落付いていることが出来なかったのである。
彼方是方《あちこち》とお種は転々して歩いた。森彦の宿に二週間ばかり置いて貰って、寺島の母が国へ帰った頃に、漸《ようや》く嫁の方へ一緒に成ることが出来た。毎日々々雨の降った揚句で、泥濘《ぬかるみ》をこねて戻って来ると、濡《ぬ》れた往来はところどころ乾きかけている。店頭《みせさき》の玻璃戸《ガラスど》はマブしいほど光っている。薄暗い壁に添うて楼梯《はしごだん》を昇ると、二階の部屋の空気は穴の中のように蒸暑かった。丁度豊世はまだ簿記の学校の方に居る時で、間に合せに集められた自炊の道具がお種の眼に映った。衣紋竹《えもんだけ》に掛けてある着物ばかりは、室内の光景《さま》に不似合
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