なものであった……お種は、何処《どこ》へ行っても、真実《ほんとう》に倚凭《よりかか》れるという柱も無く、真実に眠られるという枕も無くなった。
その日からお種は豊世と二人で、この二階に臥《ね》たり起きたりした。姑と嫁の間には今までに無い心が起って来た。お種は、自分が夫から受けた深い苦痛を、豊世もまた自分の子から受けつつあることを知った。自分の子が関係した女――それを豊世が何時《いつ》の間にか嗅付《かぎつ》けていて、人知れずその為に苦みつつある様子を見ると、お種は若い時の自分を丁度|眼前《めのまえ》に見せつけられるような心地《こころもち》がした。
不思議にも、貞操の女の徳であるということを口の酸くなるほど父から教えられたお種には、夫と他の女との関係が一番|煩《うるさ》く光って見えた。で、お種は自分の経験から割出して、どうすれば男というものの機嫌《きげん》が取れるか、どうすれば他の女が防げるか、そういう女としての魂胆を――彼女が考え得るかぎり――事細かに嫁の豊世に伝えようと思った。夏の夜の寝物語に、お種は姑として言えないようなことまで豊世に語り聞かせた。こんな風にして、姑と嫁との隔てが取
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