みうちぎわ》に近い方へ持って行かれた。間もなく彼女は達雄が悄然《しょんぼり》と見送ってくれたその同じ場処に立った。
 六月の光は相模灘に満ちていた。お種は岸を立去るに忍びないような気がした。夫と一緒に歩いた熱い砂を踏んで行くと、松並木がある、道がある、小高い崖《がけ》を上ったところが例の一晩泊った旅舎《やどや》だ。
「オヤ、只今《ただいま》御帰りで御座いますか。大層|御緩《ごゆっく》りで御座いますネ」
 何事も知らない旅舎《やどや》の亭主は、お種が昼飯《ひる》の仕度に寄って種々《いろいろ》なことを尋ねた時に、手を揉《も》んだ。
 豊世や、森彦や、それから留守居している実の家族にも逢われることを楽みにして、まだ明るいうちにお種は東京へ入った。

        九

 豊世が借りている二階はゴチャゴチャとした町中にあった。そこは狭い乾燥した往来を隔てて、唯規則正しく、趣味もなく造られた同じ型の商家が対《むか》い合っているような場所である。豊世がこういう町中を択《えら》んだのは、通学の便利の為で、彼女は上京する間もなく簿記を修めることにしていた。そこへお種が尋ねて行った。
 姑《しゅうとめ
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