種は皆なの意見に従って、更に許しの出るまで伊東に留まることにした。山に蕨《わらび》の出る頃には、宿の浴客は連立って遠くまで採りに出掛けた。お種もよく散歩に行って、伊豆の日あたりを眺めながら、夫のことを思いやった。採って来た蕨は丁寧に乾し集めた。支那の方へ行ったとかいう夫の口へ、せめて乾した蕨が一本でも入るような伝《つて》は有るまいか、とも思ってみた。
六月の初に成った。漸《ようや》く待|侘《わ》びた日が来た。お種は独りでそこそこに上京の仕度をした。その時に成っても、達雄からは何等の消息が無い。しかし、お種は夫を忘れることが出来なかった。
旅で馴染《なじみ》を重ねた人々にも別れを告げて、伊豆の海岸を離れて行くお種は、来た時と帰る時と比べると、全く別の人のようであった。海から見た陸《おか》の連続《つづき》、荷積の為に寄って行く港々――すべて一年前の船旅の光景《さま》を逆に巻返すかのようで、達雄に別れた時の悲しい心地《こころもち》が浮んで来た。
汽船は国府津へ着いた。男女の乗客はいずれも陸《おか》へと急いだ。高い波がやって来て艀《はしけ》を持揚げたかと思ううちに、やがてお種は波打際《な
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