拭《ふ》く時に、思い直した。
湯から上って、着物を着ようとすると、そこに大きな姿見がある。思わずお種はその前に立った。湯気で曇った玻璃《ガラス》の面を拭いてみると、狂死した父そのままの蒼《あお》ざめた姿が映っていた。
「真実《ほんと》に、橋本さんは御羨《おうらやま》しい御身分ですねえ――御国の方からは御金を取寄せて、こうしていくらでも遊んでいらっしゃられるなんて」
すこし長く居る女の湯治客の中には、お種に向って、こんなことを言う人も有った。お種は返事の仕ようが無かった。
「ええ……私のようにノンキな者は有りませんよ」
お種は自分の部屋へ入っては声を呑《の》んだ。
林の家族はやがて東京の方へ引揚げて行った。お種の話相手に成って慰めたり励ましたりした隠居も最早居なかった。この温泉場を発《た》って行く人達を見送るにつけても、お種はせめて東京まで出て、嫁と一緒に成りたいと願ったが、三月に入っても未だ許されなかった。沈着《おちつ》け、沈着けという意味の手紙ばかり諸方から受取った。
国の方からは送金も絶え勝に成った。そのかわり東京の森彦から見舞として金を送って来た。この弟の勧めで、お
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