復《ま》たお種は自分一人を部屋の内に見出《みいだ》した。竹翁の昔より続いた橋本の家が一夜のうちに基礎《どだい》からして動揺《ぐらつ》いて来たことや、子がそれを壊《こわ》さずに親が壊そうとしたことや、何時の間にか自分までこの世に最も頼りのすくない女の仲間入をしかけていることなどは、全くお種の思いもよらないことばかりで有った。
豊世は行って了った。午後に、お種は折れ曲った階段を降りて、湯槽《ゆぶね》の中へ疲れた身《からだ》を投入れた。溢《あふ》れ流れる温泉、朦朧《もうろう》とした湯気、玻璃窓《ガラスまど》から射し入る光――周囲《あたり》は静かなもので、他に一人の浴客も居なかった。お種は槽《おけ》の縁へ頸窩《ぼんのくぼ》のところを押付けて、萎《しな》びた乳房を温めながら、一時《いっとき》死んだように成っていた。
窓の外では、温暖《あたたか》い雨の降る音がして来た。その音は遠い往時《むかし》へお種の心を連れて行った。お種がまだ若くて、自分の生家《さと》の方に居た娘の頃――丁度橋本から縁談のあった当時――あの頃は、父が居た、母が居た、老祖母《おばあさん》が居た。この小泉へ嫁《かたづ》いて来た
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