》を前に置いて、「早く好いところから貰って上げて、一同安心いたしまするように……これが何よりも御家の堅めで御座いまするで」
「そのお嫁さんだテ」とお種も力を入れる。
「どうもこの町には無いナア」と達雄は眉《まゆ》を動かして、快濶《かいかつ》らしく笑った。
その時、お種は指を折って、心当りの娘を数えてみた。年頃に成る子は多勢あっても、いざ町から貰うと成ると、適当な候補者は見当らなかった。
「飯田の方の話よなし」とお種は嘉助の方を見て、「あれを一つお前に聞いて貰うぞい」
「ええ、あれは引受けた」と嘉助が言った。
三吉は聞咎《ききとが》めて、「飯田の方に候補者でも有るんですか」
「ナニ、まだそうハッキリした話では無いんですがね、すこしばかり心当りが有って」と達雄は膝を動かす。
「聞き込んだ筋が好いもんですから」とお種も三吉に言い聞かせた。「今年の秋は、嘉助も彼地《あっち》へ行商に出掛けるで、序《ついで》に精《くわ》しく様子を探って貰うわい――吾家《うち》でお嫁さを貰うなんて、お前さん、それこそ大仕事なんですよ」
この人達は、子と子の結婚を考える前に、先ず家と家の結婚を考えなければ成らな
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