心配させまい心配させまいとするような風に書いてある。何となくお種は家に異状の起ったことを感じた。こうして遠く離れた土地へ――海岸へ出れば向に大島の見えるような――そんな処へ独り彼女が置《おか》れるというは、何事も夫が見せまいとする為であろうと想像された。お種は、夫に勧められて無理に連出されて来た旅の心細かったことや、それから途中で夫の手が震えてついぞ切った例《ためし》のない指なぞを切ったことを絶えず胸に浮べた。そんなことを思う度に、身体がゾーとして来た。
 二月待った。隣室の林夫婦は、隠居と書生だけ置いて、東京の方へ行く頃と成った。その人達を船まで見送るにつけても、お種は堪え難い思をした。
 東京に居る森彦からの手紙は、すこしばかり故郷の事情を報じて来た。それを読んで、始めてお種は夫の家出を知った。森彦の考えにも、ここで姉が帰郷してみたところで、家の方がどうなるものでも無い。それよりは皆なの意見を容《い》れて今しばらく伊東に滞在しておれ、とある。不思議だ、不思議だと、お種が思い続けたことは、漸《ようや》く端緒《いとぐち》だけ呑込《のみこ》めることが出来るように成った。しかし、彼女の気質
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